大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行コ)38号 判決 1998年3月16日

控訴人

イハラケミカル工業株式会社

右代表者代表取締役

望月信彦

右訴訟代理人弁護士

福田浩

被控訴人

中央労働委員会

右代表者会長

山口俊夫

右指定代理人

花見忠

近藤紘一

井上博夫

日向栄

被控訴人補助参加人

女のユニオン・かながわ

右代表者執行委員長

橋本純子

右訴訟代理人弁護士

野村和造

宇野峰雪

鵜飼良昭

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成六年(不再)第一号事件について平成七年二月一日付けでした不当労働行為救済命令は、これを取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文第一項と同旨

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決の「事実及び理由」欄中の「第二 事案の概要」(原判決三頁一〇行目から一六頁一一行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

三  証拠

証拠については、原審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

四  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求を棄却した原判決の判断を正当と認めるものであり、その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄中の「第三 争点に対する判断」(原判決一七頁一行目から二五頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一八頁九行目から二一頁一一行目までを次のとおり改める。

「しかしながら、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件申込書を受領した皆藤は、その差出人である被控訴人補助参加人の表示に「ユニオン」という語句が用いられ、また、右表示に続いて、「執行委員長 橋本純子」、「担当執行委員阿部裕子」の表示がされていること、本件申込書の文面が、「今井組合員の労働条件のすべてに関して、ユニオンとの話し合いによって決定されるよう、ここに申入れます。」という内容であったことから、右文書は、労働組合である被控訴人補助参加人が、今井の労働条件に関して控訴人に団体交渉を申入れる趣旨のものであると認識した。そこで、皆藤は、本件申込書の取扱いについて上司である佐藤総務部長及び控訴人の顧問弁護士である福田浩弁護士と協議したが、その結果、控訴人としては右文書を黙殺する方針を決定した。

その理由は、(1) 本件申込書には、差出人である被控訴人代理(ママ)人が労働組合であることの明示がなく(真実労働組合であるか否かも明かでない。)、申込みの趣旨が団体交渉であることが明言されていないこと、(2) 控訴人における同社の労働組合との団体交渉に至る手続は、まず、労使の担当者レベルで事務折衝を行い、労使協議会を経て、組合側がスト権を確立し、これを背景として団体交渉に臨むのが通常であるのに、本件申込書は、いきなり団体交渉を申し入れてきたものであって、手続ルールに反すると考えたこと、(3) 本件申込書に、今井が控訴人から突然解雇され、二か月間の雇用契約を一方的に強要された旨記載されている部分は、控訴人にとっては全く事実に反する記載であり、かかる一方的な言分を掲げた文書を送付してくるのは非礼であること、(4) 五月一二日に到達した本件申込書をもって、同月一四日を交渉日時として指定してくるのは、あまりに唐突であることであった。そして、控訴人は、本件申込書を黙殺すれば、再度被控訴人補助参加人から何らかの働きかけがあるものと考えて、これを待つことにした。

(二)  右のような方針を決定した後、皆藤は、今井に対して、本件申込書が送付されてきたことを伝え、併せて、従前今井から要求があった退職金の支払いには応じられないが、二〇万円程度の謝礼金は考慮する旨を告げた。これに対して今井は、被控訴人補助参加人に任せてある旨答えたところ、皆藤は、「一切関係がない。」と述べた。

(三)  被控訴人補助参加人の執行委員である阿部裕子(以下「阿部」という。)は、五月一八日、今井から、右のような皆藤とのやりとりを伝えられて、控訴人が本件申込書を無視して、今井との間で事態の解決を図ろうとしていると考え、同日皆藤に電話を入れた。

この電話において、阿部は、速やかに団体交渉に応じるよう求めたが、皆藤は、今井が入社当時から労働組合に加入していないことを理由として、被控訴人補助参加人との交渉に応じる意思がない旨を述べ、阿部が、本件申込書は労働組合による団体交渉の申込れである旨を伝えたのに対しても、話し合う必要はないとして、全く取り合わなかった。

(四)  そこで、被控訴人補助参加人は、五月二一日、神奈川県地方労働委員会に対して、控訴人の不当労働行為に対する救済を申し立てると共に、控訴人に対し、改めて五月三一日付けの文書をもって、団体交渉の拒否に対して抗議を申入れ、これに応じるよう催告した。

以上のとおり認められる(なお、皆藤の神奈川県地方労働委員会及び被控訴人の審問手続における供述調書(<証拠略>)には、前記五月一八日の阿部との電話によるやりとりの際、同人から、被控訴人補助参加人が労働組合であり、本件申込書の趣旨が団体交渉の申入れである旨の説明はなかったとの供述記載部分があるけれども、右部分は信用し難い。けだし、<証拠略>によれば、被控訴人補助参加人は、使用者に団体交渉を申入れる際には、通常、本件申込書のように、「団体交渉」という語句の使用を避けて、「話し合い」を申し入れる旨の文書を用いているが、これまで、かかる文書による団体交渉の申込れを拒否されたことはほとんどないこと、阿部は、一部上場会社である控訴人が、本件申込書に対して何らの解答を示さないことに不審を感じていたところ、前記のとおり、前同日、今井からの連絡により、控訴人が被控訴人補助参加人を無視して、同人との間で問題の決着を図ろうとしていると考え、これに抗議するため皆藤に電話するに至ったことが認められるのであって、このような背景の下にされた前同日の電話においては、被控訴人補助参加人が労働組合であり、本件申込書の趣旨が団体交渉の申込れである旨を明確に告げたとする阿部の供述(<証拠略>)の方が、はるかに信用性に富んでいるからである。)。

右認定事実によれば、控訴人は、被控訴人補助参加人からの団体交渉の申入れを拒否したことが明かである。しかも、その拒否の理由は、いずれも正当でない。まず、前記の(1)の理由は、本件申込書の文言に拘泥する極めて形式的な理由であって、採るに値しないし、(2)及び(4)の理由については、団体交渉の手続に関する事項であるから、控訴人としては、まず被控訴人補助参加人に連絡を取って、その手順、日時などについて折衝すべきであったのであり、かかる一片の労も採ることなく、本件申込書を黙殺することは、不当であるといわなければならない。また、(3)の理由については、控訴人が指摘する文言は、被控訴人補助参加人の主張であり、その団体交渉に臨む基本的な姿勢を明かにしたものであるから、これを不当とするのであれば、団体交渉の場において自らの主張を展開すべきであって、彼我の見解の相違は、団体交渉の拒否理由として、到底正当なものとは言い難い。」

2  原判決二四頁一〇行目から二五頁七行目までを次のとおり改める。

「これを本件についてみると、前記のとおり、控訴人会社は、当初から被控訴人補助参加人との団体交渉を拒否し、憲法及び労働組合法によって保障された被控訴人補助参加人の権利を無視する姿勢を持していたのであり、このような不当労働行為に対する救済方法として、控訴人に対し、誠実な団体交渉と問題解決の努力を約した文書の交付を命じることは、控訴人の姿勢変更の自覚を促す相当な方法と認むべきである。

この点に関する控訴人の主張は、採用の限りではない。」

五  結論

よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野寺規夫 裁判官 小池信行 裁判官 坂井満)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例